【2019年版】衰退する「理容業界」を現役のプロが徹底解説

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理容師をこれから目指すという方は、なかなか少ないのではないでしょうか?今、理容師を目指している方がいるとすれば「親の床屋を継ぐ」という方が多いと思います。なぜならば、2003年には25万人いた理容師は、2015年には、22万7000人にまで減っており、それに伴い店舗数も減っております。

その大きな要因は、下記の5つに集約されます。

①ブラックな体質
②1,000円床屋などの低価格チェーンの普及
③一人前になるまでに時間がかかる
④男性客の美容室への流入
⑤理容業界の古い体質

こういったことが要因で「後継者不足・人材不足」におちいっている業界なのです。しかし、この業界の良いところは、他の業界と違い、自動化・AIによる置き換えが困難であり、一度理容師としての標準的なスキルを身につければ、職を失うリスクが最も少ない業界と言える点でしょう。

本日は理容業界で15年の経験があり、自らも店舗を運営している筆者が、理容業界について詳しく解説いたします。

12年間で約2.5万人も減った理容師数の推移

まずは厚生労働省から発表されている下記のデータをご覧ください。このデータを見れば、理容師が毎年急激に減っていることが分かります。

厚生労働省:理容業の実態と経営改善の方策(抄) 

2003年(平成15年)に25万人いた、理容師が、2015年(平成27年)には22.7万になっており、この12年間で10%も理容師が減ってしまいました。それに伴い店舗数も2003年には14万店舗あったものが、2015年には12.4万店舗になっており、店舗数も10%減となっているのです。

この期間(2003年~2015年)、日本の人口はほぼ横ばいであるため人口減による減少とは言い難く、理容業界を目指す若者が極端に減っているため、10%も減ってしまったのです。しかも、減少率は表を見てもらうと、年々高まっていることがわかり、2014年と2015年の間には約3500人も理容師が減っており、理容師の減少に歯止めがかかる気配がありません。

理容業界を盛り上げていくには、理容師の数自体を増やしていかないといけませんが、これから紹介する5つの要因により、今後理容師が増えて行くのは難しいと言わざるを得ません。

理容師が減っている要因①業界のブラックな体質

端的に言えば、理容業界は独立をしない限り、給与は安く、労働拘束時間が長く、休みが少ない業界と言わざるを得ません。昨今は働き方改革で、昔ほどではないにしろ、ブラックな体質であることは間違いありません。まずは理容師の平均年収ですが、年収ラボのホームページによると、2015年(平成27年)で284万円となっております。

理容師の平均年収は284万円!30種類の業界の中では29位の低水準

年収ラボ:理容師の平均年収(平成27年)

しかも、この平均年収は、年収ラボが調査する30種類の業界で29位と下から二番目であり、かなり年収が低い業界であることは間違いありません(参考:30位は調理師見習い)。

これは筆者の個人的経験談ですが、10年以上のベテラン理容師であっても、月の給与が20万円に満たない方もいますし、珍しいことではありません。また見習いであれば月の給与が15万円ということもあります。

もちろん、キャリアを積み、独立しオーナーになれば年収1,000万円を超える方もめずらしくはありませんが、そうではないと、店長になっても世間一般の平均年収を達成するのは非常に困難です。

このような背景から、安月給に耐えられず、仕事を辞めたり、給与が一般の理容師より良い「1000円床屋」に人材が流出してしまうのです。

法定労働時間は週40時間だが、特殊事業の理美容業界は週44時間が認められている

法定労働時間とは、労働基準法が定めている労働時間の限度で、1日8時間で週に5日間出勤で40時間となる計算です。ただし、事業やお店を運営すると、必ず8時間以内に仕事が終わらないこともあるので、月で帳尻を合わせることが求められております。そしてこの時間を過ぎた場合には残業代を支払わなくてはなりません。

参考記事:所定労働時間と法定労働時間の違い

しかし、理美容業界の労働時間は例外で44時間の特例が認められております。そして、この特例は従業員数が10名以下の事業者に限られますが、理容業界の85,4%は3人以下の店舗がほとんであり、業界のほとんどの店舗がこの44時間の特例を理容しており、法の面からも、労働環境の整備が遅れている業界なのは明らかです。

◆理容店舗の平均従業員数(厚生労働省データより)

 

そして、この業界で慣例となっているのが、営業時間終了後の居残りカット練習です。新人は専門学校で利用免許を持っているのですが、免許をもっていてもカット経験が乏しく、お客さんのカットをすることは、できません。だいたい入社して2年程度は、見習いという形になります。

そのため、カット経験をつむために居残りでカット練習を数時間ほど店舗で行うのですが、多くの店舗では残業代が支払われておりません。店舗によっては晩御飯を交代でスタッフが作り、夜おそくまでカット練習をおこなっており、かなり長い労働拘束時間となっているのです。

しかし、現オーナーや店長たちも、過去には同じ道を辿っており「一人前になるためには、日々夜遅くまでカット練習をするしかない!」という考え方が主流なのです。そしてこれは間違っているわけではなく、一人前のカット技術を得るには、練習量が絶対に必要なのです。

ただ、こういった考え方を他の業界と比べると、異質であることは否めず、こういったことも理容師になる若者が減っている要因の一つなのです。

理容師が減っている要因②1,000円床屋などの低価格チェーンの普及

先ほど要因①であげた「給与が低いこと」と関連しますが、QBハウスなどの1,000円床屋の普及も大きな要因の一つです。下記の図をご覧ください。QBハウスの店舗数の推移です。急激に増えているのがわかります。

そしてQBハウスだけでなく、1,000円床屋市場が生れ、多くの企業がしのぎを削っております。

1,000円床屋の特徴ですが、顧客の回転率が高いことと、価格競争力による集客力が非常に強いため、高い営業利益を出しやすいのです。そのため理容師の給料も一般的な個人事業主の店舗スタッフの理容師より、待遇が良いため、給与待遇目当ての理容師が集まります。

1,000床屋市場が大きくなればなるほど、通常店舗の理容室のスタッフがますます集まりづらくなるのです。とは言っても、1,000床屋の給与がそこまで高いわけではなく、あくまで全国の理容店と比べるとやや好条件ということ、さらには大手ゆえに残業代が比較的しっかり支給されることによります。

1,000円床屋のスタッフのデメリットは、1,000円床屋では、カットのクオリティや顧客対応スキルを求められるのではなく、スピードや手際の良さが求められます。そのため1,000円床屋でキャリアを積んでしまうと、通常の理容室のカットのクオリティを出すことが難しくなります。

また、1,000円床屋の給与は、世間一般と比べると高いわけではなく、30歳半ばのエリアマネージャークラスでも、30万円を超えることはありません。

しかし、平均的な理容室の給与が安すぎるために、目の前の給与を求めて、1,000円床屋に転職する理容師が後を絶ちません。また、若手は最低でも2年は店舗で、お客さんのカットをできないことから、髪を切ることのできる1,000円床屋に転職してしまう方もいますが、キャリアを見据えて考えないと取り返しがつかないことになるでしょう。

理容師が減っている要因③一人前になるまでに時間がかかる

通常、理容師になるためには理容専門学校に2年間通います。そして理容免許をとって、理容店に就職するわけですが、理美容業界の大きな課題は、免許を持っていても、お客さんのカットをすることが数年間はできないのです。

なぜなら、現実的に理容免許を持っていても、カットをする技量まで経験を積めていないのです。そのため、先ほども例にあげたとおり、理容店に就職した若手アシスタントは、店舗営業終了後に、数時間のカット練習を毎日余儀なくされます。

そこまで、やってなんとか2年後くらいにはスタイリストとなり、お客さんの髪を切ることができるのです。業界では常識ですが、例えばこれが動きの速いIT業界であれば、2年もあればマネージャーや課長クラスになっていることもあり、他の業界と比較しても理容業界で若手が現場で一人前になるには相当な時間がかかるのです。

また、2年でカットができるようになれば、良い方であり、実は現場には5年以上経っても、アシスタントのままという方がいます。そうなると1人前になるまでに他の業界や1,000床屋に転職しやすい業界構造になっていると言わざるを得ません。

この問題は、理容学校のカリキュラムをもっと実践的にするなどの抜本的な改革をしないとどうにもならない問題ですが、理容学校のカリキュラムも、カットスキルだけでなく、衛生の知識など座学も必要なため、難しい問題です。

理容師が減っている要因④男性客の美容室への流入

まず、下記のリンク先を見て欲しい。下記は「理容室」と「美容室」のどちらに行くか?のアンケートを行ったものです。これを見ると、20代~30代の男性は、理容室を使っていることが多いことがわかります。

◆あなたは現在、理容室と美容室のどちらを利用していますか?

株式会社アスマーク調べ:理容室・美容室に関するアンケート調査

特に20代男性にいたっては、50%が美容院を利用しております。もちろん歳を重ねて、美容院を利用しなくなる層も一定数おりますが、それでも今後は男性の美容院の利用が増えて行くことはデータが物がっております。

そもそも、こうなった要因は、通常の理容室に差別化要素が非常に少ないことに原因があります。例えば美容室なら、オシャレな髪型や雰囲気をプロモーションで訴求しており、1,000円床屋なら、手軽さと価格でプロモーションを行っておりますが、顧客が一般的ないわゆる床屋を選択している理由は「家から近いから」という理由が一番であり、差別化要素がそもそも少ないのです。

◆理容店を利用するキッカケ

上記引用先:理容店に関する消費者意識と経営実態調査

このため、理容業界も「接客サービスに力を入れる」あるいは「若者が好むスタイルを提案」し、かつそれを、インターネットや口コミを使いプロモーションしていく努力をしていかないと、新しい顧客をつかむのは大変難しいのです。

しかも、ライバルの理容店や1,000円床屋の店舗はいまだに増え続けており、こういった努力を理容業界全体で行っていかないと、これから理容業界を目指す若い理容師の数はますます減っていくでしょう。

理容師が減っている要因⑤理容業界の古い体質

①から④の全ての要因の根本は、理容業界の古い体質にあります。飲食業ではブラック企業と叩かれた、ワタミの問題から、徐々に労働時間の改善に着手する企業が増えておりますし、また新規参入が非常に多い業界なので、健全な新陳代謝が生れます。

しかし、理容業界の80%以上の店舗は従業員3名未満の個人事業主の店舗が多く、業界自体がなかなか過去のやり方から方向転換するのは難しい状況なのです。

例えば、シャンプーのやり方一つとっても、お店ごとにやり方が違うため、統一したスキルというのが業界ではありません。

また、理容学校の目的も国家試験を通過させることが目的になっており、理容師をその後戦力として通用することを目的としていません。

ですから、理容業界としては古い体質を脱却し、今の状況を鑑みた施策を打っていかなくては、理容師が今後もへりつづけて行くことでしょう。

まとめ

ひと昔前でしたら「大学に行くのは大変だから専門学校いく!」そして「専門学校の中だったらオシャレそうだから理容に行く!」という層が全国に多くいましたが、今は、全員が大学に行ける時代になったため、そもそも理容師を目指す若者が非常に少ないのが現状です。

しかし、冒頭でも話した通り、これから理容師を目指す方は悪いことばかりではありません。もし、スタイリストを目指し一人前になれば、業界の理容師自体が少ないため、職にあぶれることは決してないでしょうし、これから理容師がもっと少なくなれば、需要と供給の原則から、必ず給料は高くなります。

また美容師では、髭剃りはできませんが、理容免許ならばそれも可能で、床屋で髭剃りを行うのは当たり前かもしれませんが、10年後の2030年には、理容師も理容室も激減しているのは間違いなく、カットも髭剃りもできることは、街にあふれた美容室や1,000円床屋と比べて、大きな差別化要因となるでしょう。

ですから、理容業界自体が落ち込んでいく産業であることは否めませんが、個人が目指す業界としては、これから重宝されるため、非常に良い選択ではないかと思っております。ただし、記事で説明したとおり、一人前のスタイリストになるには、経験を積まないといけませんから、カンタンではないことも覚悟しておきましょう。

もし、理容業界をこれから目指す方がいれば、弊社の千葉県の理容室「AGENTA(アジェンタ)」でも新人・中途の人材を募集しおりますので、下記サイトのリクルートページよりお気軽にご連絡ください。

AGENTA(アジェンタ)公式サイト